雨、ときどきセンセイ。

部屋を出て階段を下る。


なんで?どうして?
センセイが、すぐそこにいるなんて!


そんな気持ちばかりが逸って、足がうまく動かないまま玄関を目指す。

残りの階段が3、4段あたりで、私はふらりとバランスを崩した。

手すりに手を掛けていたにも関わらず。

その握力のなさと立ちくらみは、風邪の熱と、空腹。そして寝起きですぐに動いてしまったことでそうなることは、容易にわかるものだった。

それでも気付いた時にはもう遅くて。


ダダダンッ…とそれなりの音を立てて、私は階段下の玄関前に勢いよく倒れ込んだ。


あー…なにやってんの、私。
昨日も学校で同じようなことをやり掛けて。
あの時は間一髪助かったのに、これじゃあ意味ないよ…。


体を打った痛みと、力が入らない手のせいで起き上がることが出来ない。
冷んやりとしたフローリングがやけに頬に気持ち良くて。

私は顔を床にピタリとつけたまま、ボーッとしている意識に負けて目を閉じた。


…気持ちいい。
でも、体が痛いなぁ…。

あ。センセイ。

早く起き上がってカギを開けなくちゃ…。


脳ではそう考えて指令を出しているつもりだったけど、どうやら体は動いていなかったみたい。

あの扉の向こうにセンセイがいるのに。

玄関だけに意識を集中させていたら、横のリビングからガラッと音がした。


「大丈夫か⁈」


すぐ横で片膝をつけて私を見るのは、紛れもなくセンセイだった。


「どこ打った? 頭からか⁉」
「あ…頭は…大丈夫で…足と脇腹…いたた…」


すぐ近くから聞こえて来たセンセイの声に、私の意識はハッキリとしてきた。
そのまま体も起こせそうな気がして、手を床について上半身を浮かせる。


「無理するなよ」


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