雨、ときどきセンセイ。

その答えを聞いて、私はもう一歩踏み込む。


「……“会いに”行ってもいい?」


だってもう、昨日言ったから。
『好きです』って。

隠すことも、遠慮することも、なにも必要ない。


「……もう行かないかもしれないぞ」


真剣な目で、私を見る。
その目に私も、今度は逸らさずに見つめ返す。


「好きにしたら」


私の視線に負けたのか、センセイの方が先に目をふいっと逸らして、溜め息をつきながら言った。

「ほ、本当に…?」


いいの?
せっかく突き放すチャンスだったのに、また振り出しに……ううん。振り出しじゃなくて、ちょっと進んだところから。
そこからまた再スタート切ってもいいの?


「じゃ、お大事に。明日も無理しないように」
「あっ…」


センセイがドアノブを回し掛けた時に、咄嗟に呼び止めてしまった。

そのドアノブを元に戻してセンセイが振り返る。


「まだ、なんかあるの」
「や…えぇと…」
「…メシ食って大人しく寝てろ」


私の机にそのまま残ってたトレーを見てセンセイは言って、ドアを開けた。


「あっ…ありがとう! …ございました…」


ドアが閉まって行き、視界からセンセイが見えなりそうな時に思わず叫んだ。

すると、そのドアの隙間から確かに見えた。

静かに、柔らかい表情で、こっちに微笑みを向けたセンセイを――。




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