雨、ときどきセンセイ。
センセイが好きだった、“先生”……。
帰りのバスからずっと家に着くまでそればっか。
すごく意外。
あのセンセイが、教師に片想いしてたなんて。
ト音記号のクリップ……音楽室……。
やっぱり音楽の先生だったのかな?
センセイが音楽を専攻するなんて考えられないな。
木曜日(あした)は音楽室にいる?
もし、またそこで会えたのなら、また聞いてみてもいいかな。
それとももう二度とその話題には触れさせてくれないだろうか。
聞きたいこと、知りたいことがたくさんあり過ぎて。
それでもまだ心が落ち着いていられるのは、その先生はもう先生じゃなく、誰かと結婚をしていると聞いたから。
そうじゃなきゃ……。
そうじゃなきゃ、私は今頃、香川先生の時どころの騒ぎじゃなくなってる。
だって敵うはずない。
どうやって、太刀打ちしていいか……今ですら。
思い出の女性(ひと)に、どうやったら勝てるっていうの?
恋愛初心者の私にはハードル高すぎ……。
とぼとぼと歩き、家の前で止まる。
俯いていた顔を少し上げ、家を見た。
昨日、この家にセンセイが来た。
この、私の家に、センセイが。
私に、会いに来てくれた。
それを胸に深呼吸をひとつする。
私がセンセイの“先生”になることは出来ない。
代わりになることも出来ないし、代わりなんてなりたいと思わない。
だったら、やっぱり私は私のまま、この気持ちが届くまで突き進むだけだ。