雨、ときどきセンセイ。


センセイが好きだった、“先生”……。


帰りのバスからずっと家に着くまでそればっか。

すごく意外。
あのセンセイが、教師に片想いしてたなんて。

ト音記号のクリップ……音楽室……。
やっぱり音楽の先生だったのかな?
センセイが音楽を専攻するなんて考えられないな。

木曜日(あした)は音楽室にいる?

もし、またそこで会えたのなら、また聞いてみてもいいかな。
それとももう二度とその話題には触れさせてくれないだろうか。


聞きたいこと、知りたいことがたくさんあり過ぎて。

それでもまだ心が落ち着いていられるのは、その先生はもう先生じゃなく、誰かと結婚をしていると聞いたから。

そうじゃなきゃ……。

そうじゃなきゃ、私は今頃、香川先生の時どころの騒ぎじゃなくなってる。

だって敵うはずない。
どうやって、太刀打ちしていいか……今ですら。

思い出の女性(ひと)に、どうやったら勝てるっていうの?
恋愛初心者の私にはハードル高すぎ……。


とぼとぼと歩き、家の前で止まる。
俯いていた顔を少し上げ、家を見た。


昨日、この家にセンセイが来た。
この、私の家に、センセイが。

私に、会いに来てくれた。


それを胸に深呼吸をひとつする。

私がセンセイの“先生”になることは出来ない。
代わりになることも出来ないし、代わりなんてなりたいと思わない。

だったら、やっぱり私は私のまま、この気持ちが届くまで突き進むだけだ。



< 88 / 183 >

この作品をシェア

pagetop