とびらをあけて~大人になる日~
ほんとうのキモチ
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門番さんは、ちいさなちいさなこえでいいました。

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「行かないで……」

「――え?」


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こんどは、ちいさなちいさなこえさえだせませんでした。

こえをだしたら、ないてしまうからです。

かわりに、こころのなかでせいいっぱいさけびました。

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「ぼくのことを、忘れないで……!」


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いつもさみしい門番さんの、ほんとうのキモチ。

うけとめてくれたひとはいません。

いままで、ひとりも。

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「今言わなくて、いつ言うのよ。ばかだな、私も。」


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大人になれば、門番さんをわすれます。

みんな門番さんをわすれました。

だから門番さんは結局いつもひとりです。

それでも、門番さんはいつだって子どもたちに大人になってといいます。

誰にもきこえないように、ちいさなちいさなこえで行かないでとつぶやいて。

こころのなかでは、忘れないでとさけびながら。

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