すいそう

 一瞬だけ、人の隙間から見えた「あの子」の手。白くて、はちきれそうなほどぱんぱんに膨れていて、それでいてそのまま水に溶けてしまうのではないかと思うほど柔らかそうで、張りのない、知らない誰かの手だった。作り物のように現実味のない肌。僕が大好きだったあの子の姿は、きっと水の中でお伽噺の人魚姫のように泡になって消えてしまったんじゃないか。そう思えて仕方がなかった。
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