すいそう

 しばらくの間、ぼくの周りから音が消えた。日本語を、理解できなかった。嘘だろう? あの子が行方不明だなんて。金曜日の放課後に教室を出ていく姿を目撃されたのを最後に消息不明だと、荷物が教室に置きっぱなしだと、淡々と述べられる事実に空っぽの頭がついていかない。何か情報があれば、些細なことでいいので教えてください。そう言って立ち去ろうとした担任に追いすがるかのように僕の口から飛び出したのは、今にも泣き出しそうなみっともない震えた声だった。
「せ、せんせえっ……」
 僕の声に肩をつかまれた担任が振り返る。クラス中の視線がぼくに突き刺さる。
「貯水槽……っ、屋上のっ貯水槽にっ」
 そこまで叫んだところで、急に目の前が真っ白になった。
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