【短編】佐藤君は無口
「ん?」
「いや、その……たまたま、ね」
「そう……」
「じ、じゃあまた明日!」
なんだか急に恥ずかしくなって、私は早くここから立ち去ろうと、勢いよく席を立ち上がる。
でも、足を進めようとすると佐藤君に止められた。
「え、な、なに?」
「……カバン」
あ……カバンを持たないで帰るところだった。やっぱり今日はどこか抜けている。
「じゃあ、さ、さよなら」
私は既に忘れ物回収済みのカバンを手に持ち、改めて佐藤君のほうを向く。
「…………」
佐藤君は黙って頷いた。
さっきまで喋っていたのだから「さよなら」の一言くらいは言えばいいのに……。
でも、頷いたその顔はいつもの無表情ってわけじゃなくて、少し柔らかいような気がした。
もしかしたら今日の私をマヌケだと笑っているのかもしれないけど、それならそれでいいや。