あなたは私の王子様。―Princess Juliet―

「これから、どうしよう…」

泣き疲れて、真っ赤になった目許を
濡れたタオルで冷やしながら
ジルは一人ごちた。

馬車は二人をのせたまま東へ進む。
クレゼンダールから
王都ソフィスまでは馬車で半日ほど。
王立騎士団はもう随分と前から
クレゼンダールで東方貿易船の怪しい動きを
見張っていたのだとハインツは言った。

「ひとまず、
君はベルティエ家には戻れない…となると、
親戚は?」

「いえ。多分居るのだと思いますが…
その、両親は駆け落ち同然だったので…」

ジルの両親…
キースとクラウディアは駆け落ち同然で
決して祝福された結婚ではなかったのだと
メイド達から聞いたことがあった。
恐らくはそれ故に、叔母リーシェは
ジルを疎ましく思っていたのだ。

ベルティエ家に訪れた客人は
とても多かったが、親戚には会ったことはない、とジルは首を振った。

「そうか…」

うーん、と頭を抱えたハインツに
申し訳なくてジルは苦笑した。

「大丈夫です。私、図太いので
どこでも生きていけますわ。
貴族とは申せど、名ばかりでしたし。
こう見えて、料理なんかも作れますから!」

よくわからない自慢をしてしまったジルは
固まるハインツを見て、顔を赤らめた。

< 35 / 39 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop