『短編』理想の上司
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スーツをスマートに着こなしたその男こそ、あたしの教育係の永瀬渉(ながせ わたる)。
仕事ができて、イケメンで、そして優しいと評判の課長だ。
一目、彼を見た瞬間、あたしは恋に落ちた。
そして、仕事中の真剣な姿を見て、時折見せる屈託ない笑顔を見て、あたしはますます惹かれていった。
「できました」
あたしが作成した集計表を永瀬課長に渡すと、彼はにっこりと微笑み、
「どれどれ」
と言ってチェックし始めた。
集計表をチェックする真剣な顔に、思わず胸がきゅんとなる。
永瀬課長は、細長い縁なし眼鏡をくいっと中指で押し上げると、
「この数字は大きすぎるな」
と言って、赤いボールペンでチェックした。
「あ、本当だ。すみません」
凡ミスをしてしまい赤面していると、永瀬課長は、
「大丈夫、がんばれ」
と言ってにんまり笑ってみせた。
この会社に入社して、3ヶ月。
仕事はまだまだわからないことばかりで緊張の連続だけど、あたしを優しく指導してくれる永瀬課長のおかげで、なんとか頑張れている。
永瀬課長だから、頑張れる。
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