『短編』理想の上司
「水野さん、財務課に提出するデータ、作ってたよね?あれ、早めに送っておいてくれる?財務課に催促されてるんだ」
「はい。わかりました」
緊張してまともに顔が見られないよ……。
「あ、それから僕が集計した分も一緒に送っておいて。僕、今から打ち合わせ入らなくちゃいけないから」
そう言うと、課長は座っているあたしの後ろに立ち、
「このデータね」
と言って、あたしのパソコンのマウスを素早く動かした。
課長の腕がわたしの肩に一瞬触れた。
心臓が止まるかと思った。
「わ、わかりました」
慌てて返事をすると、くすりと笑われた気がした。
「じゃ、頼んだよ」
そう言い残して、課長は颯爽と部屋を出ていった。