『短編』理想の上司
するとそこへ、ようやく打合せを終えた永瀬課長が戻ってきて、残業しているあたしを見るなり、
「あれ?どうした?」
と声をかけた。
「すみません。財務課に送ったデータの数字がおかしかったみたいで……やり直しなんです」
俯きながらそう答えると、
「そっか。了解」
と言って、あたしの失敗を責めることもなく数字のチェックをし始めた。
「あ、あたし、やります。自分で」
「え?」
「あたしが失敗したんですから。ちゃんと責任もって自分で最後までやります」
書類に取りかかろうとすると、横で盛大なため息が聞こえた。
「君の責任感やプライドはどうでもいい。今一番大切なのは、この仕事を今日中に終わらせるということだ」