『短編』理想の上司
「それになんか紗智ちゃんさ。日に日にかわいくなってるよ。やっぱり素敵な人のそばにいると、女もキレイになるのかな」
何気なく言った麻里ちゃんのその言葉にドキッとした。
確かに毎晩、服は念入りに選んでいるし、ばっちりメイクもするようになった。
それはやっぱり、永瀬課長にキレイに見られたいからで。
その時、あたしたちのテーブルに食事を終えた永瀬課長がやってきた。
脱力していた麻里ちゃんが、とっさにに背筋を伸ばしたのが少し面白かった。
「水野さん。昼休みにごめんね。昼からちょっと助けてもらいたいことがあるんだ。頼むね」
「はい、わかりました」
思わず立ち上がって返事をすると、永瀬課長は、
「ありがとう。じゃあね」
と軽く手を上げ、去って行った。
しばらく永瀬課長の背中を見送っていると、その一部始終を見ていた麻里ちゃんが、
「やっぱりかっこいい」
と言って、テーブルにへばりついた。