菜の花の君へ
京田の言葉は今の智香子にはグサっと心に突き刺さった気がした。
和之そして和音・・・気がついたら智香子のそばで支えて守ってくれた人。
大切にされて好きになって・・・。
(これって私が男だとしたら据え膳と同じなのでは?
家庭というごちそうの中で用意されてしまったごちそう。)
「自由で無のところって・・・。」
「そうだなぁ。
君も20才になるんだから、独立してひとり暮らしなんてどう?」
「えっ!だけど・・・和音さんはそんなの許してくれません。
それに、私は昨日の今日で夜が怖いです。」
「まぁ、確かにそれはあるね。
それじゃ、大学の女子寮に入れるようにしてあげるよ。
ルームメイトもいるし、門限はきついような気もするけど、セキュリティ面はけっこういいと思う。
残り2年あれば自分とまわりを冷静に見つめることができると思うよ。
門限までは自由行動なんだから、今の家の様子を見に行くこともできるじゃないか。
やっぱり、夜に独り身の男女が結婚もしていないのに、いっしょに住んでいるというのはどうかと思う。」
「そ、そうですね。世間では同棲しているようにしか見えないですもんね。
じゃ、あの・・・寮に入れるようにお願いできますか?」
「わかった。じつはうちの教授が女子寮の管理者なんだよな。
今日中に話はつけておくから、今週中にも引っ越してきていいようにするよ。」
「すみません・・・。またお手間かけてしまって。」
「気にしないで。
今の君の心に僕は付け込もうとしてるんだからね。」
「えっ!?」
「休日にデートしよう。
生活に必要なものの買い出しでもいい。付き合うよ。
中務家の男しか知らないなんて、おかしいだろ。
手始めに~でもいいから・・・ね。」
京田の笑顔にホッとさせられて智香子は約2年を自分見つめて自分らしくがんばってみたいと考えるのだった。
きっと和音には反対されるだろうけれど、和音がもし結婚してしまったら、パニックになってしまうかもしれないという思いが頭の中をよぎってしまう。
(いつ捨てられてしまうかなんて心配しながら生きるなんて嫌!)
そう、自分で堅い覚悟をして和音に話をもちかけた智香子だったが、あっさりと和音はその話を受け入れたので、拍子抜けしてしまった。
「いい話だね。
今回のことがあって、僕も智香と距離をおいた方がいいかと思った。
京田准教授?お話をすすめてもらって、智香の好きにしてごらん。」
「ほんとに・・・いいんですか?ここから出て行っても・・・。」
「智香が考えて出した答えに文句を言うつもりはないよ。
確かに夕飯は楽しみにできないのは残念だけど・・・バイトのときに会ったり休日にも会えるなら大丈夫さ。
失態ばかりで苦しませたくないし、僕のそばにいれば危険にまきこまれるかもしれない。」
「わ、私はそっちの方が心配です!
和音さん、無理してるんじゃ・・・。」
「してないって。それに和紗たちがどういうわけか、監視してくれてるしね。
それだって君にはプライバシーがないだろう?」
「まぁ・・・それは。」
「じゃあ、話は決まり。短い間でしたけどお世話になりました。
な~んてね。あははは。」
「嫁に行くんじゃないのに。あははは。」
笑いながら、2人は言葉にできない淋しさを感じていた。