菜の花の君へ
智香子の引っ越しは2日後には終わった。


生活に必要なものは寮にそろっているし、学校で勉強している以外の時間は和音のマンションか黒田の画廊に智香子はいた。


マンションにもどって和音の夕飯を用意していると、監視目的でやってきた和紗に注意をされる。



「如月は近いうちに社名が変わるらしいよ。
バカな経営陣も田所親子のいきすぎた行動のせいもあって、外部からの取締役を受け入れるしかなくなったそうだ。」


「田所さんどうなったんですか?」



「千夏の方はストーカー扱いにはなったみたいだけどね・・・和音に近寄らなければ別に何もお咎めはなかった。
でも、会社側からは行き過ぎた行動をとったとクビになって、親父の方はとっくにデザイナーとしての生き方はできなくなっていたから、療養しながら絵を描いてるよ。

体の調子がよくなったら美術教室や児童ホームで子どもに絵を教えるんだそうだ。」


「療養ってどこがお悪いんですか?」



「アルコール中毒さ。本人がいちばんデザイナーとしてはやっていけないことをよく知っていたってことだね。

娘が裸で和音にした行為を知って、病院に行ったそうだ。
重度にならなかったのが幸いだ。」



「千夏さん・・・必死だったんですね。
和音さんが前みたいに会社のためにがんばってて、自分に振り向いてくれたら幸せになれたのかも・・・。」


「それは違うな。
彼女だって父親と取締役たちが会社を蝕んでしまっていたのを知っていたわけだから、和音を自分たちの思うように働かせたとしても根本的に腐ってしまった会社は朽ちてしまうしかないのはわかっていた。

ただ、卑猥な写真を撮ることで和音が自分の望みをきいてくれたとしたら彼女の心は腐っても救われた気がしたのかもしれないけど。」



智香子はため息を1つついてから、和紗の前におかずの載った小皿を差し出す。


「味見してください。今夜の夕飯です。
和紗さんも食べるなら多めに置いておきますけど。」


「オゥ!サンキュ~。・・・う~~うまい!いけるいける。」


「よかった。でも、試験の前は作りに来る余裕がないから困っちゃうなぁ。」


「ああ、いいよ。そんな気を遣わなくて。
和音だったら、腹減ったとつぶやけば作ってあげたい女がどっさり来るだろ。」



「和紗さんが作ってあげてくださいよ。
お料理すっごく上手じゃないですか!私だって教えてもらったことあるし。」



「ブッ!!あのね~俺は家政婦じゃなくて秘書だったんだからね。
まぁ、料理するのは嫌いではないから俺は基本が自炊だけど・・・さ。
本来の仕事だの、和音の監視だので忙しいしなぁ。」



「まだ、監視しないとダメなんですか?
会社は新しい人事で決着ついたって・・・。」



「そっちはたぶんもう大丈夫だろうけど、第2第3の如月のお偉いさんみたいなヤツが和音の才能をおそらく・・・狙ってる。
今度の個展の会場に堂々とやってくるはずだ。」


「でも、和音さんはもう黒田さんとこの社員として・・・」



「正式な雇用契約はしてない!
黒田さんは・・・黒田は和音を雇う気なんてないんだ。

同志だとか、共同経営だみたいなことを言ってごまかしているけど、黒田は和音に支えられた生き方はしたくないらしい。

なんつ~か・・・彼もまた芸術家だということだよ。
自分の芸術はお金にならないけど、和音がいれば社員に給料が払える。
だから表向きは持ちつ持たれつやってるけど、絵描きとしてのプライドが和音を画廊の特別にはさせないんだ。」


「画廊の特別・・・?でも、個展をするのに?」
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