菜の花の君へ
和之は智香子の上着の襟をつかんで引き寄せると、そっとつぶやいた。
「俺だけ、先に独立してしまってごめん。
けどな、離れてもずっと家族だと思ってた。俺のひとりよがりなのかもしれないけどずっとおまえのことを忘れたことなんてない。」
「じゃ、どうして手紙も電話もしてこなかったの?
私が叔母さんとこを渡り歩くのに、どれだけつらかったと思う?」
「ごめん・・・それを言われると。
俺だって学生でいろんな人の世話になりながら生活してたから、いっぱいいっぱいだったとしか言えなくて。
でも、今は違う。ちゃんと就職もしたし、お前を学校へ通わせることもできる。
ちゃんと自分に自信をもってお前のところへ現れたかったんだ。
ほんとだ!」
「でも・・・私は・・・。
それに、どうして、私の担任なのよ!
そういうの困っちゃうじゃない。
きっと、友達にいろいろ噂されちゃうわ。」
「噂されたら嫌なのか?
にいちゃんだって言えばいいだろ。
俺はぜんぜん気にしないぞ。それとも、お前は俺を男として意識してるのか?」