菜の花の君へ
智香子は顔がカァっと熱くなるのを感じたが、話をはぐらかされるわけにはいかないと、すぐに返事をする。


「何が言いたいんですか?
和之さんが和紗さんにとても嫉妬深かったといいたいんですか?」


「彼は君のことになると嫉妬深くて狂う。
それは俺に対してもそうだが・・・そばで守ってやれないから不憫だと愛情をかけたはずの弟の心を知ったときは、そりゃもう・・・鬼へと変貌してた。」


「あの・・・そこが・・・よく理解できないんですけど。」


「はぁ、お姫様は恋に疎いか・・・。
そうだねぇ・・・ヒント!

和音も和之と似た行動をとる!
今から俺がいうことを実験としてやってみなさいな。

俺とここからいっしょに店を出てにこやかに手を振って分かれたら、黒田さんに会いにいくんだ。」


「黒田さんに?何の用事で?」


「ん~と・・・そうだねぇ、学校のボーイフレンドとか先輩の名前借りてさ、こういうとこが困っちゃうの~みたいな話を黒田さんに言うんだ。」



「ええ?だって黒田さんって何の関係も・・・ないじゃない。」



「いいから。やってみることに意義があるんだって。
和音がそこに居ても居なくても、黒田さんに話しかけること。

で・・・もし黒田が君に何か行動を起こしてしまいそうになったら、俺が助けに入ることにするよ。

まぁそんなことにはならないだろうけどね。」



「どういうことなんですか?いっぱい謎めかされて和紗さん楽しんでるみたいで、ずるいじゃないですか!」


和紗はクスクス笑いながら、時折真剣な目で智香子を見ながら話す。

そんな様子に智香子も薄々なんとなく事情がわかってきていた。


(それってまるで和音さんが私のことを気にするようにしているみたい。
でも、和音さんから見て私は所詮、唯一の家族という存在なのに・・・。)



「あの、和音さんは私が家を出ても顔色1つ変えてくれませんでした。
前の邸に住まわせてくれたときは、命令してるかのように強制的だったのに出ていくとなったら、ほんとにあっさりと・・・。」


「兄嫁の中務智香子さんがやりたいということをとめることは彼にはできないさ。
邸に住むことが強制だったのは、親戚とか和之の知り合いの手から守るのに仕方がなかったからだ。

もう君の中には答えが見えているね。
そして・・・どうしていいかわからない眼をしている。

君はまだ恋をしていないんだね。
恋をせずに結婚して、恋する寸前に夫を失った。
何もわからなくてもいいんだって。

これから嫌でもわかるようになるから・・・人生楽しまないとね。

まぁ、俺と楽しむってのも大歓迎だけどね。」


「和紗さんは恋を知ってるんですか?」


「もちろん。まぁ、敗れて疲れて悲しいのも知ってる。
これでも人並みに年を重ねているんでね。

さてと・・・じゃ、予定通りいっしょに外に出てみようか。」
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