菜の花の君へ
和音はびっくりして智香子からとびのいた。

「この状況ほんとにわかってるのか?」


「はい。だって和音さんから電話がなくっても、帰りたいって思ってましたから。
ちょっとだけ待っててくださいね。」


「う、うん・・・。」


智香子がもどってくるとリビングのテーブルの上に個展に出した菜の花の今の智香子を描いた絵の写真が置いてあった。


「あれ、あの絵の写真・・・。
えっ・・・これが文字!」


写真では小さいのと同じ色で確認するのは難しいが、和音が写真にペンで囲んでいる部分を見ると、

(愛する智香子に心をこめて)


うっすらと確認することができた。


「和音さん・・・こんな・・とこに。」


そっと背後から様子を見に来た和音に智香子はバスタオル1枚巻きつけた姿で飛びついて叫ぶ。


「もう、大人ってめんどくさい!
なかなか愛してるって言ってくれなかったくせに。」


「お、おい!そんな格好でいきなり・・・」



「いきなりじゃダメなの?わざわざ写真にしるしまでつけてたくせに。」



「ふふっ、じゃ、そのままで僕の寝床までお持ち帰りだ・・・。」



翌朝、智香子が目を覚ますとお日様が少し高い位置にあるのがわかった。


「ああ゛ーーーーーーーーー!!!完全に遅刻だぁ!
どうして、和音さん起こしてくれなかったんですかぁ。」


智香子が叫んで隣を見ると和音の姿はなく、大声をあげたことで和音がベッドまでもどってきた。
しかも、エプロン姿にフライ返しをつかんだままだ。


「ごめん、僕も寝坊した。
これから朝ごはん食べて大学まで送るよ。

でも・・・大丈夫か?」


「えっ。」



「だから・・・あの、体が痛いとか・・・だな。
なぁ、どうして・・・智香子はバージンだったんだ?
まさか僕が、君の初めての男だなんて思わなかったから。

自分は未亡人でベテランみたいなこと言ってたよね。
兄さんとずっと暮らしてたのに・・・どうして?」



「えへへへ・・・まわりがベテランだと思ってるから、まあいっかと思ってた。
和之さんは最初は私の保護者として私をひきとってくれたでしょ。
そして担任の先生だったし、まずは高校卒業って目標だったの。

大学に入って費用とかもかかるし、私も勉強続けたかったし、けじめをつけた生活を望んだの。

でもね、大学卒業までなんて待てないでしょう。
だからきちんとプロポーズしてもらって、結婚の準備をして、地味でもいいから式もあげてね・・・それで・・・。」



「そっか。すまない、つらいことをまた思い出させたね・・・。
兄さんの分まで、智香子を幸せにしなきゃな。」



「私は十分、幸せですよ。和音さんこそ、またいろんな人から狙われたら大変です。」


「そうだね。それもあってフランスに行こうかと思ったんだけど・・・。
やっぱり、君をひとりで置いておけない。

いや、僕が離れられない。いっしょに居たいんだ!
寮生活をやめてもどってきなさい。
そして、結婚しよう。まずはそれからだ。」


「はい。」
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