菜の花の君へ

休日、和之が早朝から出かけた。
智香子は郵便ポストにささっていた地元の広報誌をながめると、思い立ったように学校近くの川へと出かけていった。



「すみませ~ん、ちょっとおたずねしますが、川の清掃活動の拠点はどこにあるのか知りませんか?」



智香子に呼び止められた青年はメガネをかけた気難しく見える青年だった。
コップで水をすくっては、水をながめている。



「もしかして水質とか調べておられるんですか?」



「ええ。父親が研究員なもので・・・僕は手伝いです。
あ、清掃活動でしたね。

もうちょっと下流の前に見えるカーブを曲がったところあたりで活動してましたよ。



「そうですか。ありがとうございます。では・・・」




智香子は青年に笑顔でお礼を言うと、下流へ向かって走り出した。

青年が智香子の後ろ姿を見つめ、自分も下流へ歩いていこうとした途端、突然地面の強い揺れを感じた。



「地震だ!・・・ちょっと、さっきの君ーーーー!止まりなさい!」




智香子は後ろから大声で呼ばれて振り返ると、自分の後ろに大きな岩が落ちたことを悟った。



あ・・・なんなの・・・。きゃっ揺れが・・・!




「その場に座って!しばらく様子を見るんだ。動かないで!」



すばやく、智香子のそばに駆け寄った青年は震える智香子の手をとると、


「揺れがやんだら、僕といっしょに来なさい。
ここは山に挟まれたところだから、ずっといると危険だ。
いったん避難所へいって、情報をとる。」
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