菜の花の君へ
智香子はすぐに携帯電話の電源までも切って京田に返した。


「すみません・・・わからずやの兄だからけんかしちゃった。」



「ごめんね。僕が早く駅まで送ればよかった。
お兄さんが心配するのは当然だ。
早く仲直りできるように祈ってるから・・・今夜はなるべく早めに仕事はきりあげて君には早く寝てもらえるようにするから。

新入生なんだから、大学の講義もしっかりでないとね。」



「京田さんだって、お仕事があるのに・・・」



「ああ、僕は休日関係なしな身分だしね。
集中してるときは3日連続徹夜することもあるけど、今はのんびりな時期なんだ。
それに・・・僕は最初に出くわしたときを思い出してもらえればわかると思うけど、人との接触が嫌いな人間だしね。

たまたまこういうことになってボランティア活動になっちゃったけど、あんまり人に頼られるのは慣れてないんだ。
じつをいうと・・・君への接し方も何が何やらで・・・申し訳ない。」



人々の不安のこもった話を細かく聞いてまわって、智香子は日付が変わる前には足がふらついていた。


「もうそろそろ休まないとね。君がいてくれてほんとに助かったよ。
僕は起きてるから、君はそこの寝袋で寝てくれ。」



「でも、これは京田さんの・・・あの、じゃあ交代しますから眠くなったら起こしてください。」



「うん。おやすみ~」



(お兄さんが心配するのもわかる気がするな。こんな無防備に寝るとはねぇ。
それとも、僕は男として見られてないのかな・・・。はぁ・・・。

まぁそろそろ大学の方にも出向かないといけないな。
文系とは接点は少ないけど、こんなコもいるなら退屈しないかもな。)




智香子が目を覚ましたときには、一時避難に来ていた人たちがほとんど自宅へともどっていくところだった。


「しまったぁーーー!寝坊しちゃったんだわ。」



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