菜の花の君へ
中務和音に手首を引っ張られて、人前で頭を押さえつけられおじぎをさせられた。
(お葬式・・・。かずくんのお葬式だ。
お別れ。結婚した日に・・・さよならなんだ。
話もできなかった。
会った時には、白い布が・・・。
何も、言ってくれずに指輪だけが握られていた。)
「あんたはどうする?兄は僕の家に連れて帰るけど、来るかい?」
「和之さんの家は私と住んでるマンションです。
いきなり弟だって言われても信じられないし、どうして勝手に決められなきゃいけないんですか?」
「君は兄から何もきいていないのか?
高校の教師になる前くらいに、僕はやっと兄を見つけ出し、家業を継いでくれるようにお願いしたんだが、教師になって養ってやらなければならない娘がいるとはねのけられてしまった。
だから僕は兄にある約束をしてもらうことで社長になる決心をしたんだ。
僕の未来をねじまげてくれたんだからそのくらいね・・・。」
「約束って何だったんですか?」
「兄が教師として仕事をこなせない。もしくは娘を養育できない状況に陥った場合は、僕の一存にすべて従ってもらう約束だ。
つまり・・・今、その状況にある。
彼は教師はできない。君を養育などできない。
よって、僕の一存に従ってもらうことになる。」
「それで私はあなたの家に向かう選択肢しかないってわけですか?」
「他にどうしたい?兄はここにはいられないよ。
彼は中務家の長男だからね。
君は知らされていなかったみたいだけど、ときどき兄はうちへ来ていた。
実の家族なんだから、当然ではあるけどね。
いっておくが・・・僕が社長を引き継がなければ兄と君の生活はなかった。
みんな兄が社長になるべきだと思っていたんだからね。」
「恩を売ってるつもりですか?」