菜の花の君へ
和音は無表情につぶやいた。


「勝手にしろ。僕は忙しい・・・。帰るからな。」



「ま、待って!行けばいいんでしょう。行くわよ。」



智香子は和音の家に来て驚いていた。


(こんな豪邸だなんて・・・。かずくんがお金持ちの息子・・・。)




「少しは欲が出たか。さぞ遺産の額が楽しみだろう?」



「いい加減にしてください!私はお金なんかより和之さんが帰ってきてくれるならどんなボロ家でもいいです。

帰ってきてくれないから・・・くれないから・・・やっと、やっと・・・お互いの気持ちを分かち合えたのに。
小さい頃からずっと好きで、やっと女性としてみてもらえたのに。」



「安っぽい女だな。どこの悲劇のヒロインのつもりだ。」



「こんな贅沢なところで無駄にお金使ってる人に、私の気持ちなんてわかるもんですか?

うっ、うう・・・。」


智香子が泣き始めると、和音は智香子の胸ぐらをつかんで怒鳴った。



「わかりたくもない。でもな、おまえは中務智香子になってしまったんだよ!
自分がどう思おうが、中務智香子をやるしかない。以前の僕のようにな。」
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