菜の花の君へ
智香子がパイプ椅子から離れようとしたとき、湯河はさっきまでの笑顔が消えて真面目な表情で話してきた。
「どこが嫌なのか、教えてくれない?」
「休日の活動とか宿泊するのはだめなの。」
「両親が反対してるの?もう大学生なのに過保護なんだね。」
智香子は湯河をにらみつけてつぶやいた。
「両親なんて小さいときに死んだわ。
私の意思で休日と夜は大切にしているの。
勝手な思い込みと無礼な扱いだけでも、もうここにいる必要はないと思いますけど。」
「あ・・・」
智香子と那美が固まった湯河を背にして歩きだしてまもなく、会場からたくさんの悲鳴がとびだした。
「きゃああああーーー!狂犬よ!!!」
「逃げろーーーー!」
智香子の進行方向の新入生の集まりがいきなり分散して、グランド方向と校舎へとそれぞれ逃げていこうとする間をぬうように、目つきのするどいドーベルマンが智香子をめがけて走って来ていた。