菜の花の君へ

学校から智香子の親戚で結婚を祝ってくれた人々の家をまわり、智香子は和音の邸宅へともどった。


「あの、和音さんはこれからお仕事に行かれるのではなかったのですか?」



「ああ・・・。ちょっとお腹がすいたんでね。・・・っ・・・」



そう返事をする和音の背中が少し震えるのを見た智香子は思わず口に手をあてた。



(やっと会えた2人きりの兄弟だもの。悲しくないわけないんだわ。

小さい頃からいっしょに家族として過ごした時間がある私よりも、そんな時間すら失っていて、事情はわからないけれど、やっとめぐりあった兄弟。

和之さんの我がままをきいてくれた弟さんで、今となったらきいてあげなければ死ななくてもよかったのにって叫んでもいいはずの人。)




「ごめんなさい・・・。和音さんの気持ちも考えなくて。」



「僕はなんともない。お腹がすいたのと少し疲れてるだけです。
あなたは未成年なので、兄に代わって金銭面を中心に保護者はしますけど、僕は兄のようにあんたに干渉しないし、あんたも僕のプライベートには口を出さないようにお願いしたい。」



「あ・・・すみません。・・・すみません。」




「あ~でも、泣くことまで禁止するほど僕は横暴じゃないし、好きにしてくれていいから。・・・すぐに出かけるし、帰宅は今日は遅いので、夕食を済ませて休んでいてください。」
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