菜の花の君へ
和音はそう言うと、そそくさと部屋へ行ってしまった。
そして、智香子が気づかないうちに仕事に出かけてしまったようだ。
夜が更けて、智香子は翌日の講義の用意をしながら、窓の外をながめた。
「なんて冷たい月の光。
お月様も泣いているかのようだわ。
・・・!あら?和音さんもどっていたんだ。」
玄関の前で和音が立ち尽くして月を見ている姿が智香子から見えた。
「和音さんもきっと泣いているんだわ。
私はここに厄介になっているだけのお荷物だけど、和音さんはこのお荷物も含めてずっと重い責任を背負ってるんだ。
ご両親をなくされてから和之さんを捜し当てたときいたけれど、ご両親はどうして和之さんを捜して連れ戻さなかったのかしら。
和音さんが調べてすぐにわかるなら、もっと前にわかったはずなのに。」
そんなことを考えながら、通学用のバッグを閉めようとしてふと財布に気がついた。
「あっ、ああーーーーーーー!困ったわ。バタバタしててお金を引き出すのを忘れてた。
明日、朝いちばんにアルバム代と教材費を払わなきゃいけないのに。
それに、これじゃおやつさえ買えないわ。」
コンコン・・・
「は、はい。」
「和音だけど・・・夜遅くにすまないが少しいいかな。」
「あの、何ですか?」
「声が響くので30秒でいいので部屋に入れてほしいんだけど。」