菜の花の君へ
智香子が恐る恐る部屋のドアを開いて和音を入れると、和音が智香子に頭を下げて100万円の束を1つさっと智香子に手渡した。


「えっ、ええーーーっ!!こんなに受け取れません。何のマネですか?」



「これは君が受け取るお金だから遠慮しなくていい。
兄さんの遺産ってことになるけど、まだ手続きに時間がかかるんで、とりあえず僕が立て替える形になるけど、生活費は必要でしょ。

忙しくて気がまわらなくてすまない・・・。
僕の周りの人間で、差し迫った生活費のことも申し出ない人間なんていないから、さっき外から君の姿を見て思い出したんだ。」



「それでも、いくらなんでも学生に100万円をハイッなんて渡されても困ってしまいます。
学費も出していただいてますし、日常もお世話になっているし、お小遣いや教材費なら10万円あれば半年くらいはいけそうですし。」



「はぁ・・・欲がなさすぎだろ。それに、女子大生ならもっとおしゃれでもしなさい。
兄さんは注意もしなかったのか!」



「和之さんは十分だって言ったわ。
私だって、庶民的におしゃれはしてるわよ。
高い化粧品使って高い服を着てなんてできる家庭じゃなかったんだから仕方ないでしょう。

お金をねだったりしたら和之さんを追い詰めてしまうだけなんだし、おねだりする必要もなく毎日充実してたんだから何もいらないわ。」



「僕といてもそうかな。
僕は君を充実させることはきっとできないと思う。

それに時間が余ってつまらなくなったら、経費はかかるようになる。」



「あの、その時間についてなんですけど・・・余る時間でアルバイトさせてください。
前の家から遠いので、新たに見つけないと!」



「はぁ~?この家からスーパー行ってアルバイトするとか言わないだろうな。
バイトは禁止だ。

そんなことしている暇があるのなら、君がおそらくやってないだろう花嫁修業をしてもらった方がよっぽどいい。」




「いやです!私は和之さんの妻です。卒業したらここも出ていきますし、自立しなきゃならないんです。」
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