菜の花の君へ
智香子は湯河直弥と話をするのは久しぶりだった。

サークル活動には和之が亡くなってからも3回参加していたが、湯河の姿はそこにはなかったのである。



「久しぶり~っていうか・・・会わなかった間にいろんなことがありすぎたんだよね。
俺は実家の仕事の見習いで修行させられて、土日だけボランティアに少し参加もしたんだけど、君が結婚したって聞いて、悪い冗談だと思っててさ。

そしたら今度は、未亡人だって・・・もう何が何だか。
それで、今日君の情報を後輩にきいたらさ・・・中務和音と住んでるって聞いてもう・・・びっくり!だよ。」




「湯河先輩は和音さんを知ってるんですか?」



「まぁね。小さい頃はよく遊んでもらったな。
彼はとても絵がうまくて、指が長くてみんなに優しくて愛されていた少年だった。」



「だった?」



「ああ。彼の父親はお金に汚い人で、自分の能力よりも遥かに高いもの、大きいものを何でも利用して手にしたい人だった。

我が子までもその道具だったのさ。
彼の芸術的センスと技能も金儲けになったというわけ。
他にも彼には優れたところがたくさんあったけど、母親がおおっぴらに外で出させないようにしていた。

きいた話で実話かどうかはわからないけれど、母親は息子を施設にわざと追いやって家から逃がしたかったとか。

彼には見張りがつけられていて、何度も連れ戻され、本人の好まない教育までつめこまされたらしい。


俺が中学生のときに彼にあってみようと試みたときには、彼は誰にも会わないかたくなな人間になっていて、俺にも会ってくれなかった。」



「そうだったんですか。」



「そうだったじゃないよ。中務和音はどうして君と?」




「あ・・・それは主人の実の弟さんなんです。」
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