菜の花の君へ

名刺の会社名と役職を見た智香子は、目を見開いて男の顔を見た。

すぐに車でやってきていたボランティアメンバーが来て、近くの外科へと向かう。


智香子は男といっしょに後部座席に座って、小さな声で話しかけた。


「如月織物の社長室の秘書さんだったんですか?」



「ええ。じつは公園近くの美術館に仕事で来たのですが、お昼に用意してもらった弁当にあたったのか、食あたりを起こしてしまいまして。

まぁ、あの公園のトイレにかけこんでしばらくじっとしていたんですが、今度は小さな矢のようなもので狙われて、足に力が入らないところを避けそこなって貫かれることはなかったものの、このようなことに・・・。

毒などが塗られていなくてよかったですけどね。」



「そんな冗談言ってる場合じゃありません!
毒はなくても、これって矢ガモで問題になっていたような矢で受けた傷ですよ。
当たり所が悪かったほんとに・・・大変なことになっていたわ。
警察にも連絡しましょう。病院に来てもらえばいいわ。」



「そうですね。あの・・・初対面の私をこのようなきちんとした手当をしていただいた上に先の心配までしてもらって・・・。」



「いえ・・・私は・・・中務智香子です。」



「な、中務!それじゃ、社長の・・・いや、和之の奥さんかな?」


「えっ。あなたは?」
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