菜の花の君へ
それからまもなく、和音が血相をかえてやってきて、病院のロビーでにこやかに話す智香子と平永を見て驚いた。
「すみません、ご心配おかけしました。
応急手当をしてくれたのが、和之の奥さんだとは最初知らなくて驚きました。
それと今夜はご厄介になることになってしまって・・・申し訳ありません。
ありがとうございます。」
「はぁ?」
帰宅した和音は、客間に平永を案内して、部屋に夜食を届けると伝えた。
そして、夜食を台所で用意する智香子のところへいった。
「僕に許可もなしに他人を泊まらせるなんて、君も偉くなったもんだな。」
「すみません。電話しようかとも思ったんですけど、平永さんは和音さんのことを妬んでる人たちにけがをさせられたんですし、会社での数少ない味方じゃないですか。」
「僕は、味方だなんて思ってないんだがな。
兄さんが、送り込んできた刺客のようなものだよ。
表向きは僕を守る側の秘書で、裏は兄さんに僕のことを逐一報告する役目。
頭がいいから尻尾も出さないし、仕事はよくできるし、利用する価値については余りあるけどね。
それはともかく・・・夫を亡くして1年もたたないうちに、もう僕の部下を誘惑するなんて、さすがに兄さんを言いなりにした女だな。」
「そんな、あんまりです!足のけががひどいから、あれじゃトイレにいくのだってひと苦労なはずです。一人暮らしじゃあまりにおつらいだろうと思って私はここにって・・・。
それとも、あの方の家に私が行ってお世話すればよかったんですか?」