菜の花の君へ
和音にとっては子どもの頃から置いてある調度品などすべて処分して、親の借金返済に充てた。
家と土地ももちろん他人のものとなる。
「さて・・・と。そろそろ新居へと参りましょうか。」
「あれ?このちっちゃな車は・・・。」
「部下が餞別がわりに譲ってくれた。
前のでっかいやつは地球にやさしくない上に、経費がかかりすぎるから。
もしかして、すごく不服とか?」
「ううん。私はこっちの方が落ち着くかも。あはは。」
「智香ならそういうと思った。それでさぁ・・・明日から1週間、旅に出てくる。」
「は、あ・・・はぁ??」
「ずっと働きどおしだっただろ。それに、心機一転気合もいれなきゃいけないし、そのまえにリフレッシュかな。
じつはね、スケッチブック片手に旅の絵でも描いてこようかと思ってる。」
「へぇ~~~和音さんの絵ってあのレストランにあった・・・あんな感じ?」
「あれはパステル画っぽい水彩画だけど、油絵も描いてみたいね。」
「いいなぁ。私も見学したぁ~~い。」
「学業があるだろ。今は貴重な授業料なんだからな。
ずっと走り続けてきて、ホッとできるいい機会だと思うんだ。
心配をまたかけてしまうけれど、行く先々で風景とメールを送るから。」
「仕方ないですね。確かに和音さんはいっぱいがんばったし、先週まで整理するのに大変だったし、充電は必要です。」
「1つ注意しておくけど、僕が留守の間に新居にまだ男を連れ込むなよ。
主より先に部屋を使われたくないからな。」