菜の花の君へ
真顔で話す和音に智香子は腹が立った。
「そんなことを言うくらいなら、私が寮生活を提案したときに賛成してくれたらよかったのに。
そしたら、男子禁制だからな~んの心配もいらないですよ。」
「そ、それは・・・困る。絵のこととか仕事以外のことを話す相手がいた方がいい。
それに、もう料理長はきてくれないから・・・。」
「和音さんはお料理はぜんぜんしないんでしたっけ?」
「いや、きっと智香よりうまい。」
「なっ・・・!ケンカ売ってるんですか?」
「ま、待て。何ていうか・・・せっかく家族と呼べる人ができたのに、またひとりになるのは嫌だ・・・。」
「和音さん・・・。私は嫌われてるんじゃ。
大好きなお兄さんとの時間を横取りした、悪い女だと思ってたんでしょう?」
「ああ。兄さんが君のもとへ走ったときはね。
でも、しばらくして考えが変わった。
知り合いに君たちの生活のことを調べさせて、報告を受けたときに兄さんと和紗が僕にいろいろと嘘をついていたことがわかってね。
兄弟といっても、ずっと離れていたら他人になってしまうんだなぁって思った。
兄さんには母さんの思い出はないし、父さんの恐怖もない。
中務の家のことは知らない人のまま逝ってしまったわけだし。
あ、すまない。また余計なことを・・・。」
「ご両親のこととか、和之さんに話せてなかったんですね。
私も湯河先輩からきいてびっくり・・・あっしまった!」
智香子はうっかり湯河からきいたと言ってしまい口を手で押さえた。
とがめられるかと思いきや、和音は笑顔だった。
「プッ・・・いいよ。古いつきあいのある家柄の人間なら皆知っている。
兄さんは知ろうともしてくれなかったけどね。」