菜の花の君へ
夫と子どものいる平凡な家庭の主婦として過ごしていたら、今のこの目の前の場面など確かにありえないものだっただろう。
ましてや、自分の姿を描かれた絵の存在など知らずに自分の生活にあくせくしていたはず。
そして、描かれた絵もレストランで役目を終えてゴミとなって・・・。
智香子はそんな想像をめぐらすと、なんだか悲しく思えてきた。
「私の描かれた絵は個展に出すつもりですか?」
思わず口から飛び出した言葉だった。
「少女の絵は出すつもりでいるよ。
でも、君の見たファイルの方の絵は・・・君次第かな。
許可をもらわないと訴えられそうだ。」
智香子の様子を見ていた和音はそういってクスクス笑顔でいる。
さっきの冷たい表情から笑顔に変わった和音に智香子は調子を狂わされてしまった。
「訴えていいの・・・。」
「マジで訴えるの?」
「はい。」
「ほんとに!?・・・ええっ・・・」
クールで大人な和音が小学生の少年のようにオロオロしている様に智香子はプッと吹き出してしまった。