菜の花の君へ
和音はもう参ったといわんばかりに溜息をついていた。
「ファイルの方は出さないよ。
出してほしくないことはわかった・・・。」
「菜の花の中の女の子は、自立もできていない強欲な未亡人になりました。
夢も希望もなくなっちゃうね。
私なんかより、もっときれいな女性をモデルに描いた方がいいですよ。」
「僕の作品は残念ながらそこまで正確なことは表現できていないと思うよ。
もちろん、商品化する作品なら正式な手続きをふんでモデルを雇うけど、僕の心を映した絵は、僕の心のままに存在し、廃棄もされるべきもの。」
「そ、そうなんですか。売るのでないなら、仕方ないですね。」
「嘘だよ。廃棄はできない。
けどね、心を映したのは本当で・・・菜の花の少女はとても魅力的な女性へと成長しました。
描いた画家は、自分が描いた彼女を大切に思うあまりに他人の目にふれさせたくなくなって、呪いの文言を書いてしまいましたとさ。」
「えっ!?」
「なんてね・・・。さぁてと、明日から雇われる身だからがんばらないと!
智香は何の心配もいらないから、いつもどおり学問にはげんできなさい。」
話をはぐらかされたと智香子が思ってまもなく、玄関のチャイムが鳴った。