菜の花の君へ
しばらく、和紗の車の中で智香子は話をしていたが、和紗の表情がきびしくなったことに気がついて、智香子は車から降りて家へ向かった。


「待て!君が行っちゃだめだ。」


和紗は後ろから叫んだが智香子の耳には入らなかったようで、智香子はあわててドアの鍵を開けて和音の姿を捜した。


リビングには2人の姿はなく、和音の寝室から千夏の笑い声がした。


ドアに耳をあて、様子をうかがうと千夏の声が聞こえる。


「うふふ。薬の効き目があったわね。
目を動かすのがやっとでしょう?

心配しなくてもいいわ。あと5分もすれば声も出せるし顔も動くでしょ。
でも、その5分あれば私はあなたとの既成事実を写真にとって、2人のベイビーも授かることができるのよ。

動かせはしなくても、感じるところはもう感じてるみたいだからね。

あら、口惜しいの?涙目になってるわ。
前に頼んだときにいうことをきいてくれていれば、こんなつらい目に遭わずに済んだのよ。

ちょうどいいところにご家族ももどったみたいよ。
しっかりと2人の愛し合う姿を見ていてもらおうかしらね。

いるのはわかってるのよ。お入りなさいな・・・。」


そう、千夏に言われて、智香子は勢いよくドアを開けた。

そして、和音のベッドの上を見て思わず両手を口にあてて座り込んだ。


「うそ・・・。そんな・・・。」


ベッドの上で和音と千夏は全裸になって千夏は和音に覆いかぶさっていた。
布団も掛けずに、智香子にわざと見せつけるかのように千夏は和音の下半身を撫でまわしている。


「無粋なことをするのね。
でも、こんなショータイムもいいかもだわ。
たった今、2人で記念写真を撮ったところよ。

そしてこれから、彼は私に赤ちゃんを授けてくれるのよ。
明日からはまた如月の特別社員として私の下で働いてくれるそうよ。

いちおうご家族だから連絡してるわけ。
まぁ、あなただって若いけど、旦那様とやることやってたんでしょう。
ご無沙汰だから興奮するかしらね。あはははは。」


「か、和音さん・・・。どうしたんですか?
何か言ってください!
和音さん!!!何か、何とか言って!」


泣き叫ぶ智香子を後目に千夏は笑いながら和音に馬乗りになろうとした瞬間だった。

部屋の窓から覆面姿の男が3人飛び込んで、千夏の右腕と左足をワイヤーをひっかけて縛り上げた。


「ぎゃあーーーーー!!何なのあんたたち!」


「乱暴なHはいけないなぁ。和音クンは自由を奪われ泣いちゃってるのに容赦なく襲っちゃうなんてねぇ。

恥じらいもクソもないのかねぇ・・・最近のOLってさ。
さぁ、写真を逆に証拠にして警察に突き出せ。痴女の犯行ってね。」


呆然としていた智香子の後ろから和紗の声がした。

そして、和紗はすぐに智香子を後ろから抱きしめて言った。


「もう大丈夫だから。気にするなという方がつらいだろうけど・・・未遂だからね。
俺が和音を介抱するから、君は自分の部屋で休むといい。
何も心配はいらない・・・。
あの女のことも、仕事のことも俺と部下たちで処理するから、気持ちを落ち着かせて・・・いいね。」


智香子は頷いて、何とか立ち上がりふらつきながら自室へ入り自分のベッドに倒れこむのだった。
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