ベッドタイムストーリー


本気にした訳ではなかった。


しかし、十七歳の女の子にはあまりにも刺激が強い体験だった。

ユリは、八歳歳上の水野和馬が住む世界を見てみたくなった。


いつか、都会に住んでみたいという夢も持っていた。


ユリは、志望校を地元の短大から、東京の私立大学へと進路を変えた。


ユリの父は最初は反対していたが、すぐ
に許した。

ユリが一度言い出すと聞かない、わがままな娘だとわかっているからだ。


ユリの母親は、ユリが幼い時に離婚し、家を出て行った。

男手一つで二人の兄とユリを育てた父は地元で建築会社を経営する有力者だ。

彼は美貌の娘を溺愛し、甘やかしていた。



しばらく、和馬が宮崎を月一訪れる形で、遠距離恋愛を続ける一方、同い年の彼とも付き合っていた。

それはユリの優しさだ。


難関の大学受験を控えた彼を動揺させたくなかったからだ。


ユリはポケットに隠したキャンディのように和馬の存在を隠し、それをたまに取り出しては、甘美な時を楽しんだ。



受験が済むと、合否も知らないうちにユリは同い年の彼をあっさり切った。





***


ホテルの窓からは、横浜の港の夜景が一望出来た。


ライトアップされた観覧車。電気仕掛けの光るおもちゃ箱のような遊園地。

その先にあるぼんやりと闇に白く浮かぶベイブリッジは何度見ても美しい。



宮崎のタワーホテルの夜景は、もっと静かだったことを思い出す。

ホタルの光のように、灯りひとつひとつがが貴重だった。



「そんな窓際に居て、誰かに見られない?」

ベッドの上で枕に肘を立て、横臥した
上半身裸の川嶋透が言う。



「大丈夫。見られたって構わないし。」

タフタのモスグリーンのカーテンに手を添え、ユリはにっこり笑った。


「酔ってるの?
カクテル一杯しか飲んでないのに。」


透が、少し呆れたように笑って言う。




ユリは裸でいるのが好きだ。

衣服という呪縛に似たものから開放してやるのが好きだ。


透の言葉に、ユリは何も応えず、黙って、遠くの夜の街を眺める。


何時の間にか透がユリのもとに近付き、背後から両腕を回して、一糸纏わぬその身体を抱きしめる。

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