ベッドタイムストーリー
卑猥なチェリーピンクと初夏の上高地


透は勢いよく、上半身を起こし、ユリに覆いかぶさった。

「馬鹿だな、ユリ!高校生なめんなよ。あいつら、脳みそは子供でも、身体は大人だから。
それ口実に、ユリに近づくつもりなんだ。」


透は吐き捨てるように言った。

鼻先が付くほど、顔を寄せ、見つめ合う。


「…嫌だ。いくら私でも高校生とはしないよ。教えてあげたいとは思うけどねー…」

好色な笑い声を立てながらユリは言う。


「しようがねえなあ…」


透は半分呆れたように笑うと、おもむろにユリの左手首を右手で掴み、彼女の枕の頭上に上げた。


唇を近づけ、露出したユリの白く滑らかな脇の窪みを丹念に舐めていく。


「キャッ…」


くすぐったくて、ユリは身体をくねらせた。

左脇が終わったら、右手首を掴み上げて、今度は右脇を攻める。


「透って変わってるよね。」


ユリはそれをされるたびに言った。


透はユリの脇が大好きだと言う。
ユリの身体の中で一番。


初めてベッドを共にした夜、透のその告白を聴いたユリは、とてもウケてしまってケラケラと笑った。


透はベッドに上で、水のペットボトルを手にしながら照れ笑いをし、笑うユリに反撃するように言った。


ーじゃ、ユリは俺のどこが好きなんだよ?


ユリはピタリと笑うのを止め、視線を上にして、考え込んだ。


ユリの長い睫毛が更に長く見えた。


ん~…と唸った。


ーなんだよ、考え込まなきゃいけないほど、ないわけ?

透が拗ねたように言った。


ユリはじっと、透を見つめる。


ーそうね…透の一番好きなところはね…



ユリは、可憐なチェリーピンクの唇から、全く似つかわしくない猥雑な言葉を口にした。






***


大学病院の医局秘書をしていた二十四歳の時、出身高校の美術教師だった川嶋透と、七月の上高地で偶然、再会した。


香坂琴美は、夜行バスに乗って、早朝この地に着いたばかりだった。

生まれて初めての一人旅だった。


ー香坂?もしかして、香坂じゃないか?


川嶋も一人で、元教え子の琴美のことを覚えていて、人懐こく声を掛けてきた。


琴美は、目の前にいるリュックサックを背負った丸顔の男が誰であるか、思い出すのに、少し時間が掛かった。

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