ベッドタイムストーリー
琴美を見ると、降矢は、片方の口角を上げ、キザに笑ってみせた。
人より薄いその唇は、彼を少し冷たい感じに見せていた。
「楽しんでる?」
「…うん。まあまあ。」
「カラオケなんてつまんねえよ。
港の見えるいいバーを知ってるから、行こうよ。」
琴美はもっぱら聴く専門だったが、カラオケは多いにもりあがっていた。
降矢の周辺はとても賑やかだったので、つまらない、と言ったので驚いた。
「ほんと?行ってみたい。」
無意識のうちに琴美の口は返事をしていた。
かつての同級生達と話すうちに、すっかり高校時代に戻り、気持ちが開放的になっていた。
同窓会の二次会を抜け出した琴美と降矢は、夜の交差点でタクシーを拾い、バーに飲みに行った。
降矢ケン。
初めての彼氏…
バーカウンターで彼はネクタイを緩め、リラックスした表情を見せた。
慣れた様子で若いバーテンダーに
「ウイスキーのロックね。」といい、
琴美に何にする?と訊いた。
こんなにたくさんの酒瓶の並ぶ洒落たバーは、テレビドラマのシーンでしか見たことがなかった。
少し緊張してしまい、何を頼んでいいか分からなかった。
(こういうところでは、カクテルを頼むものなのかな…)
なんとなく琴美は思う。
「カルーアミルクあるかな?」
「カルーアミルク、それ、琴美っぽい。」
火のついていない煙草を持った手でバーテンダーに合図し、降矢はくくっと笑った。
琴美は場違いだったかと焦り、照れ隠しに降矢の肩を軽く叩く。
「可笑しかった?こんなところで、そんなもの頼まないかな?」
「そんな事ないよ。」
そういって、降矢は琴美の酒をオーダーしてくれた。
そして、琴美の方に体を向け、琴美の顔を愛しげに見詰める。
「大丈夫?」
「何が?」
質問の意味が分からず、琴美は降矢の顔を見る。
「俺の思い過ごしならいいけど、琴美、淋しい目してるって思ったから。」
そう言って降矢は琴美の目を覗き込んだ。
降矢に不意を突かれた気がした。
言いようのない熱い何かが、胸にこみ上げる。