ベッドタイムストーリー
この関係を楽しむだけ楽しもうと思っていた。
ユリとソファーに寄り添って観るDVD映画。
可愛いエプロン姿のユリの作るカルボナーラやラタトゥイユ。
…全ては白昼夢だ。
いつかは葉についた露のように、滑り落ちて消える夢なんだ…
ユリもそれは暗黙の了解だった。
五月のゴールデンウィーク最終日。
ケンは連休をほとんどユリのマンションで過ごし、何度もユリを抱いた。
部屋にいるのが飽きたら、ユリの運転する白のプリウスで、夜の高速を使い、ドライブに出掛けた。
お台場のレインボーブリッジや横浜みなとみらいの夜景は宝石箱をひっくり返したようで、本当に夢見心地の日々だった。
午後八時。
静かな夜だった。
紺のバスローブを着て、ケンはベッドに横たわりテレビを見ていた。
情事が終わって気怠かった。
ローブは男物で多分、夫のものだが、ユリがこれを着て、と差し出してきたから、気にしないで着ている。
いつも観ているバラエティ番組だが、つまらなかった。
今夜中に家に戻らなければならなかった。明日からまた学校がある。
「くだらねえな…」
ケンは呟いた。
シャワーを浴びてきたユリがベージュのローブのベルトを結びながら部屋に入ってきた。
濡れた髪でドレッサーに座り、ブラッシングを始めた。
「ねえ、ケン。」
身体を捻り、ケンの方を向いて言う。
「言わなきゃいけないことがあるの。」
ユリの無防備なすっぴんは、とても幼く、アイシャドウのない瞳が少し痛々しく見えた。
「何ー?」
ケンは視線をテレビからユリへと向けた。
「夫が近々タイから帰国するの。もう、今日で逢えないの。ごめんね。
今までありがとう。」
ユリはにっこり微笑んだ。
思ってもみないユリの言葉に不意を突かれ、ケンは前のはだけた上半身を起こした。
こっちこそ。
色々教えてくれてありがとう。
短かったけど楽しかった。元気でね…
ケンはそう言うセリフをいうつもりだった。
それなのに、口が出てきた言葉は、真逆だった。