ベッドタイムストーリー
30分経ち、、ユリが休憩の為、席を外したとき、前方に陣取っていた二年の宇野という男子生徒が後ろを振り向いた。
「脱いでくれないのかな…」
宇野は誰に言うでもなく、冗談ぽく呟き、降矢に怒られていた。
同学年の降矢と宇野のやりとりは漫才コンビのようで可笑しくて、思わず琴美は笑ってしまった。
麻衣は、まともに話せる男子がいない、と、言っていたが、彼女の方が構え過ぎてると思った。
昼少し前、やっと顧問の川嶋が教室に現れた。
川嶋透は二十七歳。
短く髪を刈り込み、この時期、大抵白Tシャツに黒ジャージを着用している。
背はあまり高くないが、がっしりとした身体付きは、美術の教師というよりは、体育の先生のほうが相応しい容貌だ。
たまに授業中、面白くないギャグを言っては、生徒たちを呆れさせていた。
それでも、一生懸命で思いやりのあるところが彼の好感度を上げていた。
川嶋はユリに、片手を上げて合図したあと言った。
「水野さん、暑いところ悪いですね。よろしくお願いします。」
「いいえ~。こちらこそ。よろしくお願いします。」
ユリは座ったまま、にこやかに体を折るようして、川嶋にお辞儀した。
二人はなんだか妙に他人行儀だ、と琴美は感じた。
夕飯時の家庭科室はユリの話題で持ち切りだった。
モデルの水野ユリは、24歳。
大学時代の後輩で、化粧品会社で働いているOLなのだと、、皆でカレーライスを食べている時、川嶋が言った。
カレーライスをとっくに食べ終わっていた琴美は、シュークリームの入った箱に手を伸ばす。
甘い物に目がない琴美は、待ち切れなかった。
「先生、私先に食べちゃだめですか?」
そのシュークリームは、ユリの差し入れだった。
昼で帰ったはずのユリが夕方また、デッサンをした教室に戻ってきた。
琴美は一人だった。
「あれ…皆いないの?」
彼女は白い箱を手に、綺麗な瞳をキョロキョロさせて机に向かう琴美に訊いた。
「はい…」
琴美は教室に残り、廊下側の端っこの席で漫画を読んでいた。
「皆、美術部の部室に行っちゃったんです…。文化祭に出す作品の準備で。」
ユリの吸い込まれそうな透明感のある瞳にじっと見つめられて、なぜか琴美は赤面してしまった。
思わず、広げていた漫画本で口元を隠した。