ベッドタイムストーリー
だから、三日前、別れ際の車中で手渡された、降矢からの贈り物には困惑した。
琴美は降矢のことが、少し重くなってきた。
琴美のバッグの中に潜んでいる、小箱の存在と同じように…
透が寝てしまったあと、琴美はリビングのソファーに座り、リングを指にはめて眺めた。
緩くもきつくもない。
『江ノ島で、買ってやるって言っただろ?』
降矢から贈られた小箱の中味は、すみれ色のケースに入った、幾つかの小粒のダイヤモンドが並んだプラチナのリングだった。
地元のものなら、このすみれ色が元町にある老舗の宝飾店のものだとわかるだろう。
決して安価な買い物ではなかったはずだ。
『サイズ、もし合わなかったら、直してもらえよ。』
得意満面の降矢に断ることが出来ず、受け取ってしまった。
琴美が俯くのを、降矢は勘違いしたようで、肘で琴美の腕を突つき、
『そんな高いものじゃないから。遠慮すんなって~。』と戯けて言った。
「すごく綺麗…」
とてもセンスの良い、可憐なリングだ。
自分のために、こんなリングを選んでくれた降矢の気持ちは嬉しい。
だが、こんなものもらっても、身に付けられなかった。
透は必ず気付く。
どこで買ったのか。
いくらしたのか。
なんの悪意もなく、訊くだろう。
上手く言い訳する度胸なんてなかった。
可哀想なリング。
せっかく、気に入られて買われたのに、装飾品としての役割をすることなく、仕舞い込まれてしまう。
ダイヤモンドは明るいLED電球の下、星の様な煌めきを放つ。
だが、琴美は不安になる。
ダイヤモンドの煌めく光は何かを警告するシグナルのようだと思う。
そんな矢先だった。