ベッドタイムストーリー
「文化祭かあ。懐かしい響き!」
ユリははしゃぐように言った。
ユリのかざらない物言いに、琴美は好感を持った。
「これ、シュークリーム。差し入れ。
皆で食べてね。あなたは何してるの?」
ユリはシュークリームの入った箱を琴美の机に置くと、持っていたコーチのショルダーバッグを肩に掛け直し、壁に寄りかかって人懐こい笑顔で訊いた。
「…私、本当は美術部の部員じゃないんです。友達が来てっていうから参加したんです。
だから、やることなくて、漫画読んでるんです。」
琴美は、上目遣いにおずおずと答えた。
「ええ~何それ、友達想いなのね。
いいんじゃない、楽しそうだもん!」
身体を揺らしてユリは笑顔で言った。
この人、美人の上に性格も良さそう…
ユリの長いまつ毛が瞬きで揺れるのを、琴美は何時の間にか、ぼんやりと見ていた。
ユリの表情が一瞬曇り、琴美を怪訝そうに見ていた。
はっと琴美は我に返る。
「すみません…すごくきれいな目で素敵だなって見ちゃって…」
また赤くなりながら、視線を机の上の漫画本に落として言った。
「私、目が腫れぼったいから、水野さんみたいなぱっちりした目に憧れてるんです。」
初対面なのに、気が付くと自分のコンプレックスを打ち明けていた。
ユリが砕けた感じの歳上で、それでいて歳下の自分の話を真剣にきいてくれる、と感じたからだ。
「お母さんも年の離れた小五の妹もぱっちりした二重まぶたなのに、私は一重まぶたのお父さんに似ちゃったんです…」
そんな話をすると、ユリはクスッと手のひらを口に当てて笑ったあと、琴美の名を尋ねてきた。
「琴美ちゃん、あなたみたいな目のひとはアイシャドウとアイラインの入れ方、使い方で切れ長のエキゾチックな目になれるのよ。」
そう笑顔で言うと、ユリはコーチのバッグを肩から外し、中からバッグの大きさと同じくらいなんじゃないかと琴美が思うほどの、大きくて四角い化粧ポーチを取り出した。