ベッドタイムストーリー
コテージの部屋は、洒落た東南アジア風で、広さも申し分なかった。
「やっとついたあー。」
荷物を降ろした琴美は、ツインベッドの一つに、どさりと横になる。
「さすがに長い旅路だったなあ。」
透も靴を履いたまま、ベッドに横たわった。
琴美は、清潔なシーツのひんやりとした感触を頬で楽しむ。
着いてしまえばこちらのものだ。
旅行は三泊四日だから、これからいくらでものんびり出来る。
面倒な家事からも開放されて、やることは遊ぶ事と食べる事だけだ。
「ねえ、透。夕飯はどうするの?」
昼食で、沖縄そばを石垣空港で食べたから、お腹は空いていなかったが、琴美が訊くと、透からの返事はなかった。
横を見ると、透は仰向けで気持ち良さそうに眠っていた。
疲れたのだろう。
夏休み前、透の帰りは毎晩遅かった。
四月からまた担任クラスを持ち、今も美術部の顧問をやっていた。
一見、ほぼ全快したように見えるが、琴美の目には、まだ透が爆弾を抱えているように見える。
ベッドから降り、琴美は透のスニーカーを脱がせてやった。
寝ている透を残して、辺りを散策することにした。
透の無気力は琴美にも少しずつ伝染し、琴美自身も何かをやりたい、という気持ちになれなかった。
南国の花の匂いを含んだ風を受けて、久しぶりに生き返った気がした。
ここからはビーチは見えない。
歩いて3分ほどの距離にあると、フロントの女性が言っていた。
それは後から透と一緒に行くとして、室内プールを見に行くことにした。
新調した水着も着ないともったいない。
降矢の妻へ支払った10万円ー
引き落とした形跡は残る。
もし、通帳の記録を見た透に何に使ったのかと問われた時、琴美は
「旅行に着ていく服や水着、サンダルを買ったの。残った分はお小遣いにしちゃった。」
というつもりだった。
多少日にちが合わない面はあるが、透はそこまで突き詰めて考えないだろう。