ベッドタイムストーリー
ユリは包み込みような眼差しで、琴美を見てくれていた。
初めて逢った時にはなかった、母性に満ち溢れた目だ。
琴美はふと、14歳のユリの娘が羨ましくなった。
「琴美ちゃんは川嶋先輩のこと、本当に愛してるから、川嶋先輩は幸せよね。
琴美ちゃんが、しっかりした人で良かったわ。」
ユリの言葉に、琴美は下を向いて首を振る。
ーそんなことない…
私は体調の悪い夫に嘘をついて、元同級生と遊んでいた…
「大丈夫よ。
ここは最高にいい島よ。
ビーチは夢みたいに綺麗だし、レストランの食事も美味しい。
きっと、今夜上手くいくわよ!」
ユリはテーブルに両腕を組んで身を
乗り出し、大きな目をきらきらさせて言う。
「そうだといいんですけど…」
このユリという女性は、なぜこんなに天真爛漫でいられるのだろう。
離婚し、前夫と親権争いをしたというからには、辛いことだってあったはずなのに。
それは、彼女が持っている稀有な美貌が成せる技なのか。
自分が男だったら、確実にユリの魅力の虜になってしまうだろう。
そう琴美は思った。
ユリは腕に巻いた華奢なブレスレットタイプの時計を見た。
「そろそろ行かなくちゃ。
あの人、一人が嫌いなの。
ねえ、良かったら、今夜のディナー、一緒にしない?川嶋先輩にも会いたいな。
こんなところで偶然に会うなんて、神様からの奇跡のプレゼントだわ。
乾杯しましょ!」
ユリは弾けるように言うと、自分の小さな白いショルダーバッグから、メモ帳を取り出し、何かを書きつけた。
1ページ破って琴美に手渡す。
「私たちの部屋番号。
あとこれあげる。手を出して。」
立ち上がりながら、ユリはバッグの中から何かを取り出した。
そして、ユリに言われるまま、ひろげた琴美の手のひらにそれを置いた。
シートに入った、青い二粒の錠剤だった。