ベッドタイムストーリー
「変なものじゃないから、大丈夫よ。
ちょっとした強壮剤。
どこでも買えるようなビタミン剤みたいな軽い薬だから、安心して。
うち、時々、使うの。
あの人も仕事のストレスで全然ダメな時があるのよ。
効果は人それぞれみたいだけど。
使うんだったら、セックスする一時間前に先輩に飲んでもらってね。」
美しいユリが、人目も憚らずに堂々とセックス、と発音したことに琴美は驚き、赤くなった。
透とのベッドでの行為がどんなものであるか、ユリが知っているような気がしてしまった。
EDの治療に薬物が有効なのは、琴美も知っていた。
昔、バイアグラという薬が巷で話題になっていたことがあった。
それは医師の処方箋がなければ入手出来ないはずだ。
軽い薬だとユリは言っていたから、手のひらに置かれた錠剤は、また違う種類のものであるらしかった。
「ありがとう。使ってみますね。」
ユリのアドバイスに間違いはない。
アイメイクのアドバイスと同じように。
透はユリとの再会を喜ぶだろう。
琴美は七時にディナーの約束をして、ユリと別れた。
「えっ…?」
透は琴美からユリの名前を聞くと、青天の霹靂といった面持ちで驚いていた。
琴美がディナーの約束をしたというと、意外にも透は渋った。
「せっかくの旅行なんだぜえ。
二人で楽しもうよ。
人がいると気を使うし、面倒臭いよ。」
ソファーに座った透は拗ねたような顔をして言う。
琴美は透の隣にどすんと座り、食い下がった。
「でも、こんなところで会うなんて、奇跡だよ。
ユリさん相変わらず、綺麗だったよ。
透にも会いたいって。」
透はペットボトルのコーラを片手に、わざと忌々しそうな表情を作って言った。
「なんだよー。人がいたら、エッチな話とか出来ねえじゃん。
俺はそれが目的でここに来てるのに。」
訳のわからない透の屁理屈に、琴美は笑い出す。