ベッドタイムストーリー
演劇部夏の合宿2日目も快晴だった。
朝、支給されたおにぎりとサンドウィッチを食べるとすぐに、メインイベントである写生大会に出発した。
スケッチブック片手に(これが琴美には結構恥ずかしかった。 )皆で30分、大汗を掻きながら歩き、このあたりでは一番大きなこの公園に、やっとこたどり着いた。
木陰に入ると、琴美は人心地ついて、深呼吸した。
首の辺りをシトラスの香りの制汗シートで拭く。
意外に気持ちが良い。
陽射しは強いけれど、木の影に入ると割りと涼しくて心が安らいだ。
「じゃあ、各自スケッチして、また十二時にこの場所に集合します。」
麻衣は部員達にそういうと、足でまといの琴美を見捨ててさっさと一人でスケッチ場所を探しに行ってしまった。
琴美が少し、降矢と宇野と喋っているすきに。
(なんなのよ、もう…)
昨夜から麻衣とはなんとなく気まずかった。
琴美が降矢たちと打ち解け始めてから、なぜか麻衣は機嫌が悪くなってきた。
夜も教室という異空間に二人だけでいたのに、たいした会話もせず、寝てしまった。
麻衣にマイペースなところがあるのは知っていたが、これはない。
琴美は猛烈に腹がたった。
そばにいた降矢が、一人になってしまった琴美の方を見て言った。
「俺ら、あっち行こうぜ。」
降矢の何気ない気遣いに、琴美は嬉しくなる。
スケッチの対象物は、石造りの円形の噴水とその周りに植えられた数本の向日葵。
木陰のベンチに降矢と宇野が並んで座り、琴美は二人のそばの雑草の生い茂る地面にフェイスタオルを敷いて座った。
「それにしても、すげえ美人過ぎてあそこまで行くとちょっとビビるよな〜」
ベンチに腰掛け、スケッチブックを膝に広げた降矢が言った。
「俺も。変な風に描いたら悪いと思って妙に緊張したよ。」
宇野が戯けて言うそばで、琴美は冷や汗が出た。
昨日のデッサンの出来は散々だった。
後方にいたので、首を伸ばして皆の描いた絵をちらりと見たが、やっぱり絵が好きな者たちの集まりだ。琴美が一番下手だった。