ベッドタイムストーリー
「夫が大変なんです!
意識がないみたいなんです!
早く救急車呼んで!死んじゃう!」
泣き叫びながら、フロントに電話をしたあと、琴美はグッタリしている透の身体に跨り、震える両手で心臓マッサージの真似事をする。
さっきまで、このベッドで二人で睦みあっていたのに。
クスクス笑いながら、こんな風に透の上になっていたのに…
「死んじゃ嫌…透…」
泣きながら、ふと琴美は思いつく。
ユリのくれたあの青い錠剤。
あれが原因に違いない。
軽い気持ちでビタミン剤だと偽って飲ませてしまった。
考えて見れば、透は今も抗うつ剤を服用しているはずだった。
飲み合わせが悪かったのかもしれない。
「ごめん、本当にごめん…
なんてことしちゃったんだろ…
私、馬鹿だった…」
透にもしものことがあれば、自分の責任だ。
猛烈な後悔が琴美を襲う。
嗚咽しながら、琴美は夫の心臓をひたすら両手で押し続ける。
クーラーの効いた部屋で琴美の額にうっすらと汗が滲む。
ほどなくして、コテージのドアが激しく
ノックされ、チャイムが鳴った。
ホテルの関係者だろう。
「お客さん、大丈夫ですか?
ドア、開けて下さい!」
男の声がした。
琴美は藁にも縋る気持ちでドアの外の声に応える。
「今、開けます!」
透の身体から、離れ、ベッドから降りた時、琴美ははっと自分の姿に気がついた。
胸も露わなピンク色のシースルーのベビードールとTバックを身に着けていることに。
気が動転していて忘れていた。
激しいノックの音を聞きながら、琴美はドアを開けるのを躊躇った。
早く救急車を呼んでもらわないといけないのに。
事は一刻を争う。
着替えている時間なんてない。
でも、どうしよう、いくらなんでもこんな格好で…
琴美が逡巡していると、外の声は怒鳴るように言った。
「開けられないなら、こちらから開けさせてもらいますね!」
鍵を差し込む音がして、ドアノブが回った。
琴美のいる室内に、ユニフォームのアロハシャツを着たホテルマン三人がなだれ込んで来た。