『武士ドルが斬る!?』〈前編〉
殿の言葉にその場にいた者が胸をつまらた。
誰にも迷惑をかけずに死ぬ事を望んでいた吉乃…。
殿を残して息絶えた時…どんな思いだったのかと思うと胸が苦しく抉られる気持ちになった…。
また見送る側の殿は、その真実を受け止められる事が出来ないまま生と死の狭間で残りの人生を悲しむ暇もなく奔走し続けた日々を思うといたたまれない複雑な思いになった。
「まあ…。
皆…そんなに思い思いの顔をするな!
わしは‥ずっと決めておったのじゃ…。
人間50年…。
武門に生まれ戦う事を運命づけられ生を受けた以上…その人生に我が身を投じようと思ったのも吉乃がいてくれたからだ…。
母親にさえ疎まれたうつけのわしを…死んでくれればよいと暗殺を差し向ける者の中で…唯一わしの帰りを心待ちにしていてくれたのは…他でもなく吉乃だった。
わしは…吉乃に誓った…。
50年間という日々は…武門に生を受けた人生を全うする…。
ただし願わくば…余命を預かれるならば…その後の人生は吉乃と共に生きると決めていたのじゃ…!」