『武士ドルが斬る!?』〈前編〉
謎の逃亡劇~その4~(吉乃の夢)
チン…。
お香の匂いが周囲に漂った。
泣くまい…。
泣いてはダメ…。
必死で涙をこらえ…亡き夫に手を合わせた。
しばらくとも…すぐとも…言わずただ…「行ってくる」と言い残し本当に“逝ってしまった”夫をどう出迎えてやるべきなのかもわからずただ…帰ってきた遺体に手を合わせまた‥冥土へと見送る事になった。
葬儀も終えた後…一気にその悲しみは訪れた。
「吉乃…。
もう帰ってこねえか?」
「えっ…。」
兄が私の身を案じて生駒の実家に帰ってきてからは…とにかく身をこなにして働いた。
生駒の家は馬借を家業としていて…いつもここには…積み荷を運ぶ者で賑わいをみせて栄えていた。
馬借とは…馬に積み荷を乗せて人がその後を追うもので…最初は、農民が田畑の片手間時に行っていたものだったが、平安から室町とかけて広く利用されるようになったとされており大津、淀、奈良、京の都と遠くに荷物を運搬する者達に広く利用されていてうちはその積み荷を預かる場(現代でいう運送屋)として親しまれていた‥。
(小折城‐Wikipedia引用)
夫を失った悲しみを癒すには…身をこなにして働くことに専念していたこの頃に私はあのお方と出会った。