『武士ドルが斬る!?』〈前編〉
「背中を流してくれ…。」
「はいはい…。」
私は着物の袂をまくしたて湯殿にはったお湯を組み…手ぬぐいに軽く湯を含ませたまま殿の背中にあて言われた通りに背中を拭き洗いました。
「…吉乃…!
頼みがある…。」
「なんでございますか…?」
チクリと胸が痛みその先何を殿が言われるのかわかっておりましたが私は気丈に振る舞い笑顔で返しました。
「“三献の儀(三三九度の事)”を教えてほしい…。」
「えっ…?
私めがですか?」
美濃の斎藤道三公との和議により…殿のところにお輿入れなさる濃姫様のお話を打ち明けられると思い覚悟を決めておりましたが違った意味で裏切られ拍子抜けたまま聞き返しました。
「他に誰に聞くと申すのだ!
お主の所だって一応武家商人のお家柄…。
それに‥吉乃とて一度は経験あるのだろう!
わしは…決めたんだ。
今日…婚儀の酌を吉乃に教えてもらうまでは城に帰らぬ! よいな!
吉乃!」
「はあ…。
私で良ければ承知致しまする。」
殿がこの時何を考えているのか…まったく見当がつかず私は複雑な気持ちで頷き殿のお背中を洗い流しました。