ふるさとの抵抗~紅い菊の伝説4~
柔らかく暖かい風が頬を撫でるのを感じて絵美は意識を取り戻した。淡い乳白色の光が瞼の向こう側から透けて見える。
ここは何処だろうかと立ち上がった絵美の目に見慣れない風景が飛び込んできた。
どこかの森の中なのだろうか、うっそうと茂る木々の群れをよそに彼女の居る空間はぽっかりと空いた空き地になっていた。広さは彼女の通っている学校の校庭ほどあるようだった。
右の膝がひりひりする。手を下ろして触れてみるとうっすらと血が付いてきた。
どこで擦り剥いたのだろう?絵美はそう思うとゆっくりと周囲を見回し始めた。
その空間は花で満たされていた。季節はもう秋だというのに、それらの花は春のものだった。どこからか小さな水の流れる音も聞こえてくる。
そして、子供達の姿があった。
それも一人や二人ではない。数十人は居るようだった。
子供達は皆痩せていて薄汚れた着物のようなものを着ている。どう見ても今の子供の姿ではなかった。
誰も皆、貧しい様子に見えた。
けれども、皆安らかな表情をしている。まるで何かから解放されたような、安らかな表情だ。
子供達は皆、幼かった。大きな子供でも小学校低学年くらいに見える。
そんな中で絵美はこれらの子供達とは異質な雰囲気を持った子供を見つけた。着物姿の子供に交ざって、洋服を着た子供が数人いたのだ。その中に絵美は翔の姿を見つけた。
翔は子供達の群れから離れ、不安げに震えていた。
絵美はそっと翔に近づくと背後から彼の肩を叩いた。
「お姉ちゃん」
振り返って絵美の顔を認めると翔の顔に嬉しそうな、そして安心したような笑顔が浮かんだ。
その笑顔を見て絵美は少し救われた気がした。実は彼女も不安だったのだ。知らない場所に急に放り込まれてしまったのだ。平常心でいられるはずはなかった。
「ここは何処なの?」
翔の瞳が絵美をじっと見つめている。
「私にもわからないわ。さっき気がついたばかりだし…」
「僕もだよ。気がついたらここにいた…」
周囲の子供達が穏やかに暮らしている中、新たに仲間に咥えられた二人は周囲から浮いた存在となっていた。
翔の身体が細かく震えている。どこだかわからないところの放り込まれ、親とのつながりが断たれてしまったのだ。不安になるなという方が酷なのかもしれない。絵美であってもそれは同じ事だった。だが、自分より幼い子供達の前で狼狽えてしまうことは出来ない。絵美はけなげにもそれに耐えていた。
不意に背後で草のこすれる音がする。
絵美はその微かな音に驚き、身を固くする。見上げてくる翔をきつく抱きしめる。
音は次第に近づいてくる。
子供達もそれに気づいたのか、小さな瞳が音のする方に集まっていく。だが、彼らの視線は恐怖のそれとは異なり、尊敬と愛に満ちていた。それを感じた絵美は子供達の視線を追った。
そこには白い光に包まれた一人の女性が立っていた。
ここは何処だろうかと立ち上がった絵美の目に見慣れない風景が飛び込んできた。
どこかの森の中なのだろうか、うっそうと茂る木々の群れをよそに彼女の居る空間はぽっかりと空いた空き地になっていた。広さは彼女の通っている学校の校庭ほどあるようだった。
右の膝がひりひりする。手を下ろして触れてみるとうっすらと血が付いてきた。
どこで擦り剥いたのだろう?絵美はそう思うとゆっくりと周囲を見回し始めた。
その空間は花で満たされていた。季節はもう秋だというのに、それらの花は春のものだった。どこからか小さな水の流れる音も聞こえてくる。
そして、子供達の姿があった。
それも一人や二人ではない。数十人は居るようだった。
子供達は皆痩せていて薄汚れた着物のようなものを着ている。どう見ても今の子供の姿ではなかった。
誰も皆、貧しい様子に見えた。
けれども、皆安らかな表情をしている。まるで何かから解放されたような、安らかな表情だ。
子供達は皆、幼かった。大きな子供でも小学校低学年くらいに見える。
そんな中で絵美はこれらの子供達とは異質な雰囲気を持った子供を見つけた。着物姿の子供に交ざって、洋服を着た子供が数人いたのだ。その中に絵美は翔の姿を見つけた。
翔は子供達の群れから離れ、不安げに震えていた。
絵美はそっと翔に近づくと背後から彼の肩を叩いた。
「お姉ちゃん」
振り返って絵美の顔を認めると翔の顔に嬉しそうな、そして安心したような笑顔が浮かんだ。
その笑顔を見て絵美は少し救われた気がした。実は彼女も不安だったのだ。知らない場所に急に放り込まれてしまったのだ。平常心でいられるはずはなかった。
「ここは何処なの?」
翔の瞳が絵美をじっと見つめている。
「私にもわからないわ。さっき気がついたばかりだし…」
「僕もだよ。気がついたらここにいた…」
周囲の子供達が穏やかに暮らしている中、新たに仲間に咥えられた二人は周囲から浮いた存在となっていた。
翔の身体が細かく震えている。どこだかわからないところの放り込まれ、親とのつながりが断たれてしまったのだ。不安になるなという方が酷なのかもしれない。絵美であってもそれは同じ事だった。だが、自分より幼い子供達の前で狼狽えてしまうことは出来ない。絵美はけなげにもそれに耐えていた。
不意に背後で草のこすれる音がする。
絵美はその微かな音に驚き、身を固くする。見上げてくる翔をきつく抱きしめる。
音は次第に近づいてくる。
子供達もそれに気づいたのか、小さな瞳が音のする方に集まっていく。だが、彼らの視線は恐怖のそれとは異なり、尊敬と愛に満ちていた。それを感じた絵美は子供達の視線を追った。
そこには白い光に包まれた一人の女性が立っていた。