ふるさとの抵抗~紅い菊の伝説4~
『狩人』達は劣勢に回っていた。
 次々と繰り出される火球に自由を奪われ、次々と触手の餌食になっていった。それに彼らの数は五本の指で数えられるほどに減っていた。もはや全滅してしまうのも時間の問題となっていた。
 そんな中で横尾だけが笑みを浮かべてキメラと対峙していた。既に彼の手の中にある銃弾も数えるほどになっていた。だが、彼は諦めてはいなかった。キメラの懐に入り込む隙を狙っていた。しかし、強力になったキメラの触手はそれを許さなかった。
(何か打開策はないのか?)
 横尾がそう思ったとき、視界の片隅でクレーン車が動き出した。キメラの注意がそちらの方に向く。触手達がクレーン車に向かって飛びかかっていく。
 その隙を横尾は逃さなかった。
 彼は一気にキメラの懐に入り込むとその腹部を下から打ち抜いた。キメラの体液が横尾に降り注いだ。
 それを合図にして残った『狩人』達が銃弾を雨のようにキメラに向かって叩き込んだ。
 キメラの体がぐらりとバランスを崩した。
 そこへクレーン車のアームが一撃を浴びせる。
 キメラの足下が覚束なくなる。
 横尾はキメラのもっとも大きな頭部に銀の銃弾を大量に叩き込んだ。
 形勢は一気に逆転するかに思われた。
 しかし、そうはならなかった。
 横尾や『狩人』達の銃弾を目に見えない何かが叩き落としたのだ。
(結界か?)
 反射的に横尾はそう判断した。
 しかし、何者がそれを張り巡らせたのか?
 横尾は周囲を見回すと少し離れた見晴らしの良い場所に一人の若い男が立っているのが見えた。
(貴様か)
 横尾は体を反転させると、その男に向かって銃を発砲した。
 しかし、その銃弾は男には届かない。
 若い男は不敵に笑った。
「今君たちに勝利してもらっては困るんだよ」
 若い男、田宮宗一はそう言うと横尾に向かってライフルの銃口を向けた。
 キメラが体勢を立て直す。
 触手が『狩人』達を餌食にしていく。
 横尾は静かに田宮に銃口を向ける。
 キメラの触手が彼に狙いを定める。
 田宮が引き金を引く。
 それと同時にキメラの触手が横尾に襲いかかる。
 横尾は一瞬のうちにそれを交わすと田宮に向かって一発、そしてキメラの触手に向かって数発の銃弾を叩き込む。田宮を狙った銃弾は空しく地面に弾け、キメラを狙った銃弾は数本の触手を引きちぎった。
 田宮が再び引き金を引いた。
 その銃弾が横尾の右肩を貫いた。
 横尾はもんどり打って倒れ込んだ。
 そこへキメラがクレーン車を引き倒す音が轟いた…。
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